アワビ種苗生産での大量へい死について

 種苗生産業務に携わって1年余りが過ぎました。昨年度,アワビを担当して,要望数を満たせず,各市町村・漁協の担当者にはご迷惑をおかけしました。ある担当者からは,きびしいおしかりも受け,以前は本庁で逆の立場も経験した私にとっては,地元の方々の放流に期待する気持ちはもとより,おしかりを受ける立場の気持ちも理解できるようになりました。
 さて,言い訳ではありませんが,ここでアワビ種苗生産の難しさなどをお話ししたいと思います。先に種苗生産の流れを,続いてへい死の状況などを説明したいと思います。

親貝の仕立て
 基本的にはその年の9月に漁獲された天然貝を購入し,餌には乾燥コンブを与え,水槽で約2ヶ月間飼育したものを親貝として用います。例外的に前年に購入したものを用いることもあります。

採卵・受精
 採卵は,主に11月から12月に行いますが,年によっては4月にも行う(「春採卵」と言います。)ことがあります。
 成熟したアワビを選び,30分外気にさらした後,紫外線を照射した海水をかけ流しにすると,うまくいけば約1時間半で雄が精子を,
約2時間で雌が卵子を放出します。受精させて卵を洗い,水槽に収受すると翌日には水中を泳ぐ浮遊幼生になります。

採 苗
 浮遊幼生は,1週間ほどで物に付着し,餌をとるようになりますので,あらかじめ餌となる付着珪藻を付けた波板を水槽に入れておき,そこに浮遊幼生を収容し付着を待ちます。付き具合が良くない時は,再度新たに浮遊幼生を
収容します。付着を確認できたら波板上の餌(付着珪藻)の形成や量を調整しながら養成します。

平面飼育

 3月になり殻長が5mm以上になったものから,麻酔薬を用いて貝を波板から外し(「剥離」と言います。),シェルターという付着基盤で出荷サイズの20 mmまで飼育します。この段階で餌を配合飼料に切り替えます。

出 荷
 成長の速いものでは夏前に20 mm以上になるものもありますが,ほとんどは夏を越して秋から冬にかけて出荷します。今年度の場合は成長が速かったため,すでに6万個ほど出荷済みです。

大量へい死時期
 毎年,以上のような飼育パターンを繰り返していますが,この間大量へい死が発生する時期がだいたい3度ほどあります。
@採苗をして波板に付いて数日後(周口殻形 成初期)
A剥離直前の時期
B春先水温が上昇し24℃を越えるまでの時
 期(いわゆる「筋萎縮症」)

へい死の状況
 上記のへい死事例について個々に状況を説明します。
@幼生が波板から脱落してしまいます。幼生 が小さいので,脱落しそうなもの或いは脱 落したものの状況はよく把握できません。A稚貝が波板から脱落してしまいます。波板に付着していても波板を持ち上げるとぼろ 

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