水産用ワクチンの現状について

 魚類養殖業は養殖技術の進歩によりこれまでに急速に発展してきました。しかし,近年では,環境悪化などにより魚病が多様化・多発化して毎年大きな被害が発生しており,養殖経営を考える上で,この魚病対策が非常に重要なものとなっています。
 その様な中,平成9年6月には海面養殖では初めてとなるぶりのα溶血性連鎖球菌症不活化ワクチンが販売され,今年も多数のモジャコに使用されています。 また今年5月には,まだいのイリドウイルス感染症不活化ワクチンが販売されるなど,魚病対策がこれまでの抗生物質等による治療からワクチンによる予防へと推移してきているようです。
 加えてワクチンは残留等の心配もないことから,安全な水産物の生産に寄与することも期待されます。
 そこで今回は,水産用ワクチンの現状等について若干ご紹介したいと思います。

1)ワクチンの作用メカニズム
   魚類もほ乳類とほぼ同等の生体防御機 能を備えており,まず病原体は非特異的生 体防御と呼ばれるシステムで病原体を排
 除しようとします。(粘液→皮膚→体液→  貧食細胞:顆粒球,単球(マクロファージ))    その後,リンパ球を中心とした特異的 生体防御能と呼ばれるシステムで抗体を産 生して病原体を効果的に排除していきま  す。
 その際,一部のリンパ球では,その病原 体を記憶(免疫記憶)し,次に同じ病原体 が侵入すると,より早く,より大量に抗体 を産生し,病気の発生を未然に防ぐことが できる様になります。
 ワクチンは,無毒(弱毒)化した病原体 を体内に取り込ませることにより,この免 疫記憶を獲得させようとするものです。
2)ワクチネーションの方法
  ワクチネーションの方法として,注射
 法,経口法,浸漬法の3手法があります。
  注射法は連続注射器等で筋肉又は腹腔内 にワクチンを接種する方法で,経口法は, 餌料に混ぜて投与する方法です。
  また,浸漬法は,魚の浸透圧機能を利用 して,魚をワクチン液に直接浸けるか,飼 育水槽にワクチンを添加する方法です。
  ワクチネーションの方法により表1のと おりそれぞれ長所・短所があります。
表1 ワクチネーションの方法
手 法 方  法  長  所  短  所
注 射


 
筋肉腹腔
内にワク
チンを接
 確実な効
 果

 
 一度に多
 くの魚を
 処理でき
 ない
経 口

 
餌料に混
ぜて投与
 
 ストレス
 を与えず
 手軽
 投与量の
 把握が難
 しい
浸 漬




 
ワクチン
液に浸る
か,飼育
水槽にワ
クチンを
添加する
 短時間に
 多くの魚
 を処理で
 きる

 
 多量のワ
 クチンが
 必要


 


3)現在販売されている水産用ワクチン
  平成11年7月末現在で,あゆ・さけ科魚 類のビブリオ病不活化ワクチン,ぶりのα
 溶血性連鎖球菌症不活化ワクチン,まだい のイリドウイルス感染症不活化ワクチン
 の3種類のワクチンが製造・販売承認され
 ています。

次ページ