加熱殺菌による微生物制御

 今春の定期異動で化学部の方に転勤になり,早いもので3ヶ月が過ぎようとしています。次第に部の雰囲気にも慣れ,徐々にではありますが仕事の方も覚えてきており,今後も初心を忘れずに頑張っていこうと思っています。
 さて,梅雨も終わりに近づき,晴天が恋しくなる時季ではありますが,この頃になってくるとサルモネラ菌や病原性大腸菌O−157などによる食中毒に関する話題が紙面を賑わすようになり,我々消費者にとっても食品に対し一層の注意・関心が必要となってきます。
 私の化学部での仕事に水産物の鮮度・品質保持関係があり,実験遂行上,品質分析(一般分析,生菌数,VBN,POV等)を行う必要
があることなどから,今回,数ある食品における微生物制御の手段の中で一般的によく用いられている加熱殺菌の条件・方法等について紹介したいと思います。
 食品の変敗・腐敗は様々な微生物によって引き起こされるため,それを防止するには微生物を殺菌および静菌する必要があります。
 加熱殺菌の場合,細菌の死滅の程度は加熱温度および時間の組み合わせによるところが大きく,120℃で4分加熱の殺菌効果は,100℃で330分,110℃で32分,115℃では10分に相当すると言われています。(ただし,中身の酸性度,水分活性等によって若干異なる)。現に,缶詰やレトルト食品では120℃で4分加熱もしくはそれと同等以上の殺菌効果を持つ方法を用いることが義務づけられています(ちなみに,缶詰等における殺菌条件120℃で4分というのはボツリヌス菌の死滅を目的として設けられた基準で,大腸菌等胞子を持たない細菌では60℃で10〜30分程度の加熱が必要であるとされています)。
 また,加熱殺菌の手法にも大きく分けて低温殺菌と高温殺菌があり,低温殺菌は比較的緩い加熱条件で病原菌や変敗原因菌のみを除去するという方法で,簡単で効果が高いことから,主に水産ねり製品,清酒,醤油など広く利用されています。高温殺菌は細菌の胞子の除去効果が大きく,短時間で処理でき,食品における成分保持率も高いことから牛乳等の殺菌に用いられています。
 また,その他の手法として間歇滅菌という手法も知られています。ただし,これは100℃で胞子を殺す方法ですが,食品の栄養や水分が胞子の発芽に適した場合にのみ有効とされています。原理的には,胞子形成細菌のライフサイクル上に胞子の時期と栄養細胞の時期があり,胞子が熱に強く,栄養細胞は熱に弱いという特性を利用した方法です。 つまり,食品の加熱を数時間おきに繰り返す方法で,最初に100℃で栄養細胞のみを死滅させ,その後,条件の回復とともに,胞子が発芽し栄養細胞に変わった時に再度加熱を行い死滅させ,最後に念のため加熱をするというものです。
 今後,消費者の関心が益々高まり,より高い品質・安全性が求められることが予想されることから,対象とする細菌の特性を考慮した上で適正な殺菌をする必要があると思います。また,様々な微生物制御の方法を組み合わせることで,1ランク上の品質・安産性が実現できればと思います。

 出典:微生物制御の基礎知識(中央法規)
     食品微生物制御の科学(幸書房)          
(化学部  上村)