イシガキダイの種苗づくり

 イシダイ科の仲間のイシガキダイは,磯釣りでは引きの強さで大いに喜ばれ,また,味の方では高級感でもってイシダイとともに賞味され,以前から養殖の対象種としてとり上げられていますが,最近ではあちこちで放流の対象にもされるようになりました。
 さて,当センターにおけるイシガキダイの生産飼育について若干述べようと思います。
 親魚養成は,垂水増殖センター時代に遡る昭和50年代前半から始まりました。
 当初は,陸上の角形110トン水槽で定置網
で漁獲された体重1〜2s前後の天然魚を約20〜30尾ほど収容して養成していました。
天然魚なので餌料にも配慮しながら,近隣の瀬,養殖筏から取ってきたフジツボやイガイとか漁協の水揚げ物で廃棄処分される小ガニ,剥身後の小エビ頭部,その他の甲殻類,雑魚などを給餌したものでしたが,閉鎖的な環境に収容されたこともあってか1ヶ月以上も餌につかないことがありました。
 その後も,餌料の吟味などを含め,飼育に苦労しながら,受精卵が得られるようになったのは,栽培漁業センターになって,養殖業者から大型の3〜4sサイズのものを入手して養成するようになってからのことです。
 ちなみに,受精卵を初めて採取できた56年度の卵数は数万粒で,飼育に至らず,種苗づくりは翌57年度の総採取卵数41万粒,収容
卵数15万粒から始まりました。
 参考までに,イシダイの種苗づくりは48年度から量産事業が一時終了する59年度まで
比較的順調に推移して,40万尾程度の生産は行えるようになりました。
 イシガキダイの種苗づくりも,イシダイの生産手法を応用して行いましたが,最初の生産尾数:2.5万尾からすると,飼育はイシダイよりも容易に思われ,生残率も20%以上は期待できると推量されました。
 ところが,翌58年度からふ化後1週間から20日目頃までの間にエピテリオシスチス類症,あるいは,原因不明の大量斃死が発生し,年度によっては生産皆無という抜き差しならぬ事態に陥りました。これらの事例には年を追って,卵の消毒,飼育手法の改善,薬剤投与など様々な方法で対処しましたが有効な対策はとれず,計画的な生産は困難な状況となりました。これらの現象は,イシダイにも当然のことながら現れました。
 幸いにもエピテリオシスチス類症は62年
度以降発生しませんでしたが,横臥症状などを伴って全滅する原因不明の疾病は相変わらず発生しました。
 平成3年度になって,この現象がウイルスに起因するものではないかという疑いが持たれたため,大学の魚病研究室に検査を依頼したところウイルス粒子が確認されました。同様な症状はイシダイ,シマアジ,キジハタでも報告されていて,いわゆるウイルス性神経壊死症(通称VNN)であることが判りまし
た。このウイルスの感染経路は,親にあるのか不明ですが,生産できた飼育例もあり,仔稚魚期の飼育方法を改善することで生産可能であることも示唆されました。
 そのようなことで,毎年,主に仔稚魚期の動物プランクトンの栄養強化を検討しながら飼育を行ってきていますが,生産に結びついた時は正直言って嬉しいものです。 
 どうもイシガキダイの種苗づくりは病気との戦いと言っても過言ではないような気がする昨今です。

 (栽培漁業センター 高野瀬)