「特定疾病」

 本年5月に持続的宝飾生産確保法が公布されました。この法律の目的は「漁業協同組合等による養殖漁場の改善を促進するための措置及び特定の養殖水産動植物の伝染性疾病のまん延防止のための措置を講ずることにより,持続的な養殖生産の確保を図り,もって養殖業の発展と水産物の供給の安定に資すること」(1条)とされており,その内容は漁場改善と魚病対策の2本柱から構成されています。
 過密養殖等により養殖環境が著しく悪化したり,外国産種苗の導入とともに新たな病気が発生したりすると,将来にわたり安定した養殖業を営むことができません・この法律はそうなることを未然に防ぐことを主な目的としています。
 魚病対策についてみてみますと,新たな疾病が外国産種苗導入などとともに国内に入ってきたときの措置等について規定されており,「特定疾病」という用語が登場します。
  この「特定疾病」とは「国内における発生が確認されておらず,又は国内の一部にのみ発生している養殖水産動植物
の伝染性疾病であって,まん延した場合に養殖水産動植物に重大な損害を与えるおそれがあるものとして農林水産省令で定めるもの」(2条2項)とされており,外国では被害が大きい病気で知られているが日本にはまだ入っていない病気で,そのうち検査技術が確立しているものから重要と考えられたものが選定されています。
 この特定疾病の発生が疑われたときには緊急に検査を行い,陽性と判断されたときは病気が拡散しないように焼却等の処分にすることとなっています。
 参考までに特定疾病の概要を表1に示しました。
 なお,特定疾病以外に未知の病気も発生する可能性がありますが,これは「新疾病」と呼ばれ,発生が疑われたときは原因究明に努めなければならないとされています。また,この新疾病の病勢が特定疾病と同等であると判断されたときは,特定疾病に追加されます。
(生物部 竹丸) 
表1 特定疾病の概要
  魚 種   伝染性 疾病   発生 魚種    発生 地域    外観 症状    解剖 所見
こい科魚類
 
コイ春ウィルス血症
  (SVC)
コイ,キンギョ,ソウギョ
フナ,ハクレン等
ヨーロッパ諸国,中国
 
異常遊泳,腹部膨満
鰓,体表の出血,眼球突出
腹水貯留,肝臓,腎臓,筋肉
等の点状出血


さけ科魚類




 
ウィルス性出血性敗血症
   (VHS)
ニジマス,ブラウントラウト
グレイリング,パイク等
ヨーロッパ諸国,北米
 
体色黒化,眼球突出,貧血
眼球,鰭基部,体表等の出血
筋肉の点状出血
腎臓,肝臓の充血,退色
流行性造血器壊死症
   (EHN)
レッドフィンパーチ,
ニジマス
オーストラリア本土
 
運動失調,体色黒化
体表潰瘍(ニジマス)
脾臓の腫大等
 
ピシリケッチア症
 
ギンザケ,マスノスケ,
タイセイヨウサケ,ニジマス
チリ,ノルウェー,アイルランド
カナダ太平洋,大西洋沿岸
体表の白色病巣や出血性潰瘍
体色黒化,遊泳緩慢
肝臓の黄白色病巣
 
レッドマウス病
   (ERM)
サケ科魚類,ウナギ,キンギョ
コイ,バス,チョウザメ等
アメリカ,カナダ
 
緩慢な遊泳,体色黒化,
口吻,口腔,下顎,鰭基部赤変
肝臓,脾臓等の出血
排泄物中の黄色粘液物質



くるまえび
属のえび類



 
バキュロウィルス・ペナエイ
による感染症(BP)
ホワイトレッグシュリンプ
ウシエビ等
ハワイ,南北アメリカ
 
摂餌量減少,成長悪化
 
中腸腺の白濁
 
モノドン型バキュロウィルス
による感染症(MBV)
 
ホワイトレッグシュリンプ
ウシエビ等
 
東南アジア,インド洋,太平洋 南北アメリカ,中近東,アフリカ等 摂餌量減少,成長悪化

 
中腸腺の白濁

 
イエローヘッド病
 
ウシエビ
 
タイ,インドネシア,マレーシア
中国,台湾,フィリッピン
頭胸部の薄黄色化,摂餌不良
 
鰓の白色化や薄黄色化
 
伝染性皮下造血器壊死
症   (IHHN)
ホワイトレッグシユリンプ
ウシエビ,クルマエビ等
南北アメリカ大陸,太平洋諸
島,東南アジア,インド洋
摂餌低下,成長不良
 
特徴的所見乏しい