また,鹿児島湾においては4月〜7月,八代海においては7月〜9月に赤潮調査を実施した結果,鹿児島湾の水温は,5月上旬から7月上旬まで平年並みかやや低めで推移し,八代海においては期間中常に低めで推移した。(図4〜5)塩分は,7月上旬を除いて両海域ともに平年より常に高めで推移し,無機能窒素は,両海域ともに低め,無機態リンは,ほぼ平年並みで推移した。一方,先に述べた過去に漁業被害をもたらしたC.marina,C.antiqua,C.polykrikoidesの遊泳細胞も赤潮調査期間中にいずれも確認されたが,その数は極めて少なく赤潮形成までには至っていない。

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§九州各県における平成11年赤潮発生状況§

  九州海域における平成11年の赤潮発生件数は,81件(1月〜10月)で昨年より7件の減少で,うち漁業被害を伴ったものは9件であった。
発生海域は,八代海,有明海を代表とする九州西部海域が最も多く,次に福岡湾,伊万里湾を代表とする九州北部海域となっている。

 

なお漁業被害を伴った赤潮のうち,8月7日〜8月12日に伊万里湾で発生したCochlodinium polykrikoidesによる赤潮は,マダイ,ブリ,トラフグ,シマアジ等のへい死により7億6千万円もの漁業被害を出している。
また,近県では熊本県の八代海(津奈木地先)で8月19日〜8月26日にこれもC.polykrikoidesにより約5千8百万円の漁業被害を出している。

§赤潮対策の現状§
  対症療法的赤潮被害防止技術は,非生物体の散布を利用した方法,例えばモンモリロナイト等の活性化させた粘土の散布などと,生け簀の避難及び餌止め等の方法が考えられる。    

   しかしながら,前者は,散布後の水質の管理が大変なこと,非生物体の散布が特定の赤潮細胞にしか効果がないこと,散布に大きな労力と出費が必要なことなどから,現在では後者の方法がもっとも有効かつ現実的となっている。

   それでも,生け簀の移動の場合は,連結した多くの生け簀の2ノット以上での曳航は極めて難しいうえ,移動先及び関係機関との連絡調整が必須であるし,また餌止めにしても計画出荷に影響を及ぼす場合もでてくるなど,問題点が全くないわけではない。
  
そこで最近は,海水中に存在する殺藻細菌やウイルスが赤潮生物の崩壊に関わっていることが明らかになっており,それらを用いた赤潮除去への検討が進められているが,関与微生物の生態系の中での動態,他のプランクトンや生物に及ぼす影響等,現場での応用,安全性などかなり慎重に検討する必要があり,まだ実用化には至っていない。

.【参考文献】
岡市友利編(1997)
:赤潮の科学第二版,恒星社厚生閣
石田祐三郎・菅原庸編(1994)
:赤潮と微生物,水産学シリーズ,(99)
今井一郎(1997)
:直接接触攻撃型殺藻細菌による海産植物プランクトン
の殺藻様式,日本プランクトン学会報,44(1/2),3-9
吉松定昭(1998)
:赤潮生物の生理生態,日本海水学会誌,52巻
山口峰夫(1998)
:赤潮,沿岸の環境圏別冊,フジ・テクノシステム
本城凡夫(i999)
:赤潮研究概論,平成11年度有害赤潮プランクトン同定
研修会テキスト
水産庁・長崎県・熊本県(1999)
:平成11年度漁場環境保全研究推進全国会議資料

                                                       (生物部和田)
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